見てから読むか? 笹本敦史

見てから読むか?  映画「舟を編む」感想   笹本敦史

「読んでから見るか。見てから読むか」は30年余り前、文庫と映画をセットで宣伝して成功した角川のキャッチコピーだが、原作を先に読んで、それが気に入った作品だった場合、映画を見た時の満足感は低いような気がする。また、先に映画を見てしまうと、原作を読んだ時に映像の印象が強く、小説として純粋に楽しめないことが多いと思う。(「泥の川」のような例外もあるが)
最近では「まほろ駅前多田便利軒」がそうだった。
 三浦しをんの原作は直木賞受賞作、映画はキネマ旬報ベストテン4位、と共に評価の高い作品である。映画はおもしろかったのだが、先に映画を見てしまったために原作は展開がわかってしまい楽しめなかった。それだけ原作に忠実に映画が作られているということでもあるのだが、やはり見てから読むのは考えものなのかも知れない。

 そこで映画「舟を編む」である。原作はやはり三浦しをんの本屋大賞受賞作。原作は読まずに見た。
 言葉に対する特殊な感性ゆえに、人とのコミュニケーションに問題を抱える馬締光也(松田龍平)が、ベテラン編集者が定年退職した辞書編集部へ異動になる。
完成までに十数年かかるという新しい辞書の編纂は出版社にとってはお荷物でもあり、出版中止の噂が流れる。先輩編集者の西岡が既成事実を作って辞書編集部を継続させることに成功するが、人員削減を求められた西岡は自ら編集部を去る。期せずして責任者になってしまった馬締は監修者の松本、契約社員の佐々木らと辞書編纂に取り組む、というのが主軸のストーリーである。そこに馬締と大家の孫、香具矢(宮崎あおい)の恋というサイドストーリーが絡む。

 辞書編纂という地味な仕事を退屈させないストーリーに仕上げた力は見事と言って良い。常に用例採集(言葉集め)のためのメモを持ち歩き、辞書に掲載する見出し語を選定し、語釈(言葉の解釈)をめぐって議論を交わす。なにしろ見出し語24万という広辞苑や大辞林なみの辞書であり、気が遠くなるような作業には違いないのだが、それをとても魅力的に見せてくれる。
 今の時代、紙の辞書が新たに編纂されるということはないのかも知れない。しかし、電子版になろうが、旧版の改訂だろうが、基本的には同じような情熱を持って、同じような作業が行なわれるのだろう。

松田龍平が「まほろ駅前多田便利軒」とはまったく違う主人公を演じていておもしろい。宮崎あおいはさすが。板前としての立ち姿も美しいが、香具矢が馬締に手紙の真意を問いただすシーンは独擅場と言っていい。いい加減なようで、実は気のいい先輩西岡をオダギリジョーが好演している。

 さて、映画を見た後で、原作を読もうかどうか、思案しているところである。

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コメント

映画鑑賞
「船を編む」観ようか、どうしようか随分悩んでいました。この映画評を読んで、観ることに決めました。早速、明日行きます。

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□作品オフィシャルサイト 「舟を編む」 □監督 石井裕也□脚本 渡辺謙作□原作 三浦しをん□キャスト 松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、小林 薫、加藤 剛、      ...
2012年の本屋大賞第1位に輝いた三浦しをんの『舟を編む』の映画化作品。特に大きな事件が起きるわけでもない淡々とした展開で、映像化には不向きじゃないかなと思っていたのだけれど
大渡海めっちゃ欲しい。  
三浦しをんに同名の原作小説は出版当時から本屋さんで見かけるたびに気にはなっていたもののハードカバーはちょっと億劫なので文庫化されてからでもいいかなと思っていたら、2012年 ...