「まがね54号」感想  野村邦子


(山口県光市の野村さんから丁寧な感想が寄せられました。野村さんは俳句、俳論がご専門ですが、上関原発、光市母子殺人事件などすぐれたルポを書かれ、後者では永山則夫の著書にも言及、また村上春樹の「1Q84」を論じるなど、幅広く評論されています。以下に紹介します)


「まがね54号」感想   野村邦子

 梅から桜へと季節は足早に経過していきます。
「まがね54号」お送り下さって、まことにありがとうございました。来し方の中国ブロックでの白熱した討論など懐かしく思い起こしております。岡山支部は優れた書き手に恵まれ、充実した内容に感嘆しました。皆様それぞれのご努力もさることながら、支部としての協力体制に頭の下がる思いがいたします。
 山口支部はベテランの書き手が次々と鬼籍に入り、残された者も高齢化の波で、存続が危ぶまれるような状態です。何とかして起死回生の方策がないものかと頭を悩ましております。世の中右傾化の憂い多く、こういう時こそ、民主文学の灯を掲げ、時流に抗し、若い人に「歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」ということを示さなければいけないとは思っております。「まがね」に勇気をもらった気がいたします。
 ともあれ、的はずれな感想で相済みませんが、印象に残った作品を目次に従ってつらね、お礼に代えさせていただきます。

「わだかまる」笹本敦史
 DVが社会問題になっている現実、男女差別などの日本の旧弊が、天井裏の蛇のようにとぐろを巻いて生き残っているのだろう。父の死が殺人なのか、事故死なのか、ミステリアスな提示で、サスペンス風なおもしろ味がある。最後の場面で、「参列者の多くがわかった上で、見ていない振りをしている」日本人にはこういう態度がえてして多い。母の気持ちを本当に思えば、姉さんは母に、(信長のように)、父の遺影に抹香を投げつけさせればよいのにと思う。父が高校の倫理の教員という設定は少し無理があるように思う。姉の隠蔽工作が、日本的で何とももどかしい。きれいごとはよくない。「姉さんは僕が捨てたものを一人で背負っていこうとしている」という結びは甘ったるい。わだかまりを解くには、きっぱりと裁断することだ。

「小繋事件」(書評)石崎 徹
 読んでいないので、まことに申し訳ございません。尖閣諸島の領有権問題、タイムリーな重いテーマである。日本、中国、台湾間で、「現場の歴史的な実情から出発し」平和的に解決する方法はないのだろうか。領土問題の小ぜりあいが、戦争に拡大することを我々は何よりも恐れる。アジアの近隣諸国とのわだかまりも、元はといえば、日本人がドイツと違って太平洋戦争の戦後処理と反省をいいかげんにしてきたからだろう。近くは上関原発で住民の「入会権」を取り上げ、所有権をかさに中電に勝手なまねをさせていることを連想させてくれる。

「滅亡の序曲」田中俊明
 興味深く読んだ。信玄を英雄視した従来の解釈のアンチテーゼ。歴史的事実を掘り下げ、しっかりした歴史観をもっておられるのに感動した。義信が魅力的である。孫子の兵法の奥義はよく分からないが、権謀術数では、大義に反し、天下を治めることはできないということだ。歴史小説として登場人物の個性もよく描き出されていると思う。

「小説が出来ない」野中秋子
 少々気どりがあるようだが、文章が達者な人だと思った。サーファー君のような生き方に賛意を表する筆者は、精神的な若さを失わない人だと思う。二十代の青年がサーファー君にあこがれるのだったら平凡で、むしろ「地についた生き方を求めて働きなさい」とお説教したくなるかもしれないが。

「掌編4題」鬼藤千春
 志賀直哉の掌編集を思わせる文章だが、すっきりして読みやすかった。「駅」は何とも切ない。3,11でこういう家庭が多く存在するのではないかと思う。「捜し物」では誰にも一つ二つそういう思い出の品があるのではないか。もの言わぬ宝物が、そっと引出しにしまい込まれているとか。だが、「恭平は、その布由子の優しい心を裏切ったのである……」から以下の文章はない方がよいと思う。余情が薄れる?

「ノロ鍋始末記」石崎 徹
 作業現場で体験しなければ表現できないようなとても臨場感あふれる作品である。チームワークからはみ出す者、良心的で気の弱い人、理性的な人、ずるい人間など、さまざまな人間模様をちりばめ、くり広げられていく。後編がどのような展開になるか楽しみである。長編を作るには、エネルギーのいるものだろう。作者の体当たりの筆力に引き込まれる。正当なプロレタリア文学に近いものを思わせる。これがリアリズムというのであろうか。願わくば、心理描写などを交えて、特定の主人公をきわ立たせて、展開していただくとありがたい。荒っぽい会話が労働者らしさをイメージさせる。ところで、会話中心で展開するのは、戯曲でない限り、多用は安易に流れる危険性があるのではないかと思われる。ドラマでない小説の独自性は何でしょうか。

 生意気なことばかり書いてすみませんでした。他の作品については、よく分からないので、差し控えさせていただきます。
 三月末日には、岡山で研究会があるそうで、山口支部からも岩本さん、水野さんが出席される予定です。ご盛会をお祈りいたします。
 また、お会いする時もあれば、よろしきご指導のほど、お願い申し上げます。かしこ
   三月十一日 
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コメント

優れた比評
比評への感想を述べることは殆んどしないのですが、優れた比評なので、ひと言触れておきたいと思います。まず、比評の態度ですが、書き手への温かい配慮が見られることです。私たちはプロではなく、発展途上にある書き手なので、その意欲を喪うような比評は慎むべきでしょう。そして、この比評はよく読み込まれていて、的確な比評がなされています。どうも有り難うございました。

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