新人賞佳作 長谷川美智子「リバティーに愛をこめて」 石崎徹

 これは力のこもった読み応えのある作品である。
 去年の佳作二作品はつまらなかったが、今年はよい作品がそろった。これが入選してもおかしくなかった。
 作者紹介を見ると、文学会に所属しているのは石垣さんだけで、あとの二人は会外からの応募のようだ。ろくな賞金の出ない新人賞だが、会外からもこれだけ注目され、すぐれた作品が集まった。いろんな意味で文学会が拡がる可能性を示したといえよう。
「ふくやま文学」を見てもそうだが、文学に真剣に取り組んでいる人で、文学会と極端に考えの違う人はまずいない。広範な連携が可能だと思う。それは文学会自体が脱皮していく可能性をも期待させる。

 敗戦から半年後の台湾からの引き上げの話である。満州、朝鮮からの引き上げの話はいくつも読んだが、台湾からというのは初めてだ。
 台湾人は比較的親日的だったということは昔から聞いていた。もちろんさまざまなケースがあっただろうし、本当の心の内はわからない。だが少なくとも当作品の家族一家は台湾にいる間は恵まれていた。
 だが全員退去せよという命令が下りる。50万人である。アメリカが提供したリバティという貨物船で引き上げる。一隻に乗れるのは2千人。単純計算で250艙のリバティがいる。貨物船に甲板から船底まですし詰め状態。乗船には艀から縄梯子を伝う。途中で落ちた者は捨て置かれる。その上に航路は機雷で埋め尽くされている。リバティは機雷に弱い。触れた瞬間に2千人の命はない。それを慎重によけながら進む。何隻もが沈んでいった。
 ほとんど食べるものもなく、非衛生と栄養失調で疫痢にかかって次々死んでいく。
 運よく日本にたどり着いても故郷までの汽車の旅がまた容易でない。
 そういう状態で旅していく親子6人の波乱万丈の物語である。
 描写は微に入り細を穿っており、リアリティ満点である。見てきたように語られる。だが作者は敗戦の年の生まれである。
 主人公の15才の少年には、弟一人、妹二人がおり、末の妹は生まれて間がない。ほとんど死にかけた状態で旅をし、何度も捨てられかける。ほかの子供たちを守るためだ。おそらくこの赤ん坊が作者なのだ。
 家族からの聞き書きで書いたとしてもすごすぎる。15才だった兄の手になる原稿があってそれをもとにしたのではないか。実際、小説の中で兄は原稿を書いている。そして小説全体が兄の書いたものという体裁になっている。
 庶民の経験した戦争の手記はおそらく大量にあるのかもしれないが、この作品は手記としても評価できるうえに、文学的鑑賞に堪えるものとなっている。
 引き込まれる作品である。

 なお、入選作に二箇所、この作品に一個所誤変換と思われるミスがあった。「民主文学」誌上でミスを見ることはほとんどない。今回時間がなかったのであろうか。
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