民主文学新人賞佳作 石垣あきら「望月所長へのメール」 石崎徹

 この作品もなかなか良かった。ヘルパーが金を盗ったか盗らなかったかをめぐってミステリータッチで物語が進んでいく。関係者の会話を主体として真相を最後まで読者に伏せて進める手法はミステリーのものである。
 作者は上手に伏線を張っていく。この伏線があるので、最後の意外な結末が十分納得できるものになっている。
 解決がメールという形で一気に語られるところを安易に感じないでもないが、美紀の性格ではこういうことを口頭では言いづらかっただろうと思わせ、納得できるものである。
 女性の微妙な心のありかたは、ぼくには実感を持って理解することは難しいが、成程こういうものかと思わせられた。作者が名前からたぶん男と思われるだけに、感心した。(ひょっとして女性だろうか)。
 こういうストーリーで読者をひきつけながら、語っているのは政府の無策のために介護の現場がどんなに困難をかかえているかの実況報告である。そしてまたその仕事の大切さも語られている。
 作者はすでに62才だが、年齢に負けていない。読んで損はしない作品である。
 登場する年配の女性たちがファーストネームではなくファミリーネームで書かれるのもいい。日本の実社会ではこれが普通なのだが、日本の小説の約束事で、女性はすべからくファーストネームで書く慣習がある。そう書くと名前だけで男か女か分かる。便利な方法だが、安易な方法だと日頃感じていた。
 好感をもって読んだが、ただそのための不便はやはりある。冒頭に登場する前田が男か女か分からないのだ。
 読者は小説を読むとき、映画を見るように場面を頭の中のスクリーンに映し出しながら読む。登場人物の姿かたちがわからない、まして男か女かもわからないようでは、スクリーンに何も映ってくれない。
 以後の場面では人物をしっかり紹介している。だが冒頭でイメージを結べないというのはまずい。
 あと最近社交下手な女性の話を続けて読んで、認識を新たにした。というのはぼくのまわりにいる女性たちがみな嫌になるほど社交的な人ばかりで、反面男たちは社交下手な人間ばかりだから、そういうものだと思っていた。そうでもないようである。

(「石崎徹の小説」から転載)
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