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民主文学5月号 石崎徹

 ほとんど読み終えたところでゴールデンウイークに突入してしまい、孫たちと遊びまくって読後の印象がぼやけてしまった。不十分なものになるが一応書く。他の人が感想を書き込んでくれたら、それも合わせて補ってもらうということにしたいのだが(たぶん誰も書いてくれない)。
 掲載5作品のうち経歴の載っているもの(つまり新人)の二人が印象強かった。どちらも若い。「民主文学」の今後を期待させる。

 松本たき子「アラサー女子が行く」

 下手な文章だなと思って読みはじめた。ところが読み進むうちにそのボヤキ一人漫才のような語りがだんだんすんなり入ってきて、ところどころ思わず笑ってしまった。読者を笑わせるということは簡単ではない。それだけでも才能だ。
 いま現在、30才前後の女性がどのように生きているか、その生態の特徴を過不足なく的確に捉えている。何気ない語りのなかにそれをちりばめているのがうまい。風俗小説としても上質である。
 しかもそれが、上手に挿入される伏線によって自然に特定秘密保護法案の話につながっていく。その繋がり方にも無理がない。
 こういう作品ではどこかで作者を代弁する人物が出てきて読者を白けさせることが多いが、この作品の登場人物は誰も作者を代弁しない。普通の人物だけが登場して、しかも保護法案批判になっている。
 作者は主人公と同じ世代である。この作者にはすでに自分のスタイルがある。今後妙に文学的な方向に行くよりも、このスタイルに磨きをかけていってほしいという気がする。この文体なら若者もすんなり入っていける。しかも我々年寄りの読者にも違和感がない。
 ただ、どれを読んでも変わり映えしないということでは読者が飽きるので、題材と人物とは多様にしていく必要があるだろう。

 加藤康弘「黄金の国」

 ビルマからの避難民の話である。この作品でも描かれているのは主人公の日常生活である。冒頭にビルマでの場面があって、すぐに日本での労働現場の話になる。そのなかで2007年から現在までのビルマの変化が自然にわかる。
 物語の中心は主人公のビルマ人がけんか相手の日本人と仲良くなるにいたる顛末だ。そこでビルマ人と日本人との処し方の違い、食べ物の好みの違い、そこから生まれる誤解といったものがさりげなく示される。
 この作品でも誰も作者を代弁しない。ボランティアの若い女性が出てくるが、全然でしゃばらない。作品を華やかにするための役割に徹している。
 事情に詳しい点から見ておそらく作者自身そういうボランティアをしているのではないかと想像するが、あくまで黒衣で通している。描かれるのは主人公とけんか相手との成り行きだ。
 文章は武骨で洗練さに欠けるが、書くべきことを心得た作品といえよう。
 作者は42才。文壇では決して若いとはいえないが、高齢化した「民主文学」にとっては期待の若手ではなかろうか。

 以上が新人。以下は経歴がないので、少なくとも二回目以上の掲載である。

 石井 斉「恋風」

 決してうまいとはいえない作品だが、心に残るものがある。とりわけラストがよい。
「久美と一緒の時を過ごせればいい。それだけでいい」
 人生とは結局のところそういうものだということを納得させてくれる小説である。

 瀬峰静弥「送別会」

 国鉄分割民営化のころの労働組合の話。こういう話を短編で書くには、読者に分かるように説明するだけの紙幅はないわけだから、何か人間的なポイントをつかまえないと無理なのではないか。一応そういうものに迫ろうとしている意図は感じるのだが、かえって説明的部分がじゃまになる。どうせこの長さでは説明しきれないのだから、一切説明せずに、人間的な情景の描写に的を絞るべきではないのか。作者はわかっている。だが、分割民営化は国論を二分した大テーマであるから、読者は容易に納得しない。少しくらいの説明ならむしろまったくないほうがよい。ただ人間的瞬間を描いてみせて、分割民営化賛成者にも何かを感じさせる、そういうものが短編なのだと思う。

 中村恵美「みちしるべ」

 読みやすい作品なのだが、これにも瀬峰作品と同じものを感じた。それでも瀬峰作品には対決の場面があったが、この作品にはそれもない。一方のがわだけしか描けていない。相手側は目に見えぬ敵である。
 教職をめざす現代の若者が陥っている苦境はわかるし、私立学校経営の裏話みたいなものも垣間見える。
 だが、それ以外に何があるか。
 いま思えば、先月号の仙洞田作品では、取締役や、直属部長の人間性を、その内面的葛藤を想像しうるくらいに描けていた。それが仙洞田氏の力だと思う。そういうところにあの作品の面白さがあった。人間を見る眼の深さがあった。
 この作品では敵のがわは外からしか見えていないのだ。多くのことを書きすぎて、大事なところが抜け落ちてしまっている。

(「石崎徹の小説」から転載)
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