須藤みゆき「秋ゆく街で」    (感想)野中秋子

須藤みゆき「秋ゆく街で」        (感想)野中秋子
 
 読む者の心を重苦しくさせつつ、最後まで一気に読ませる魅力も持った作品だった。
 私は家にお金がないという逆らえぬ運命の中で育った。その事が私のものの見方、生き方、人格さえも決定づけ、兄との関係も崩れさせ、母も50代で死なせてしまったと私は強く思い込んでいる。
 貧しさという不平等と戦うためには学問をすることしかないと思う。私は患者を人間として大切にする病院を働く場として選ぶ。その病院は私の家族からは「赤」と呼ばれる職場だったのだが、私はこの職場で生きる事を選ぶ。
 そのため、母の亡き後「兄の邪魔にならないという目標」で生きる事に決めたのだった。何とも切なくて自虐的な選択を若い私は自分に課してしまう。しかしそれは、逆にたった一人の兄と自分とを切り離したくないがゆえの、屈折した心情から生じている。
 最後兄からの手紙を受け取る事で、私は自分の中に暖かい気持ちの流れを感じる。「兄に会いに行こう」そう決意する事で、自分が救済される可能性も信じられる気がするという所で作品は終わっている。
 しかし経済的困難な生活から抜け出すために選んだ職場が「赤」であるという事で、何故ここまで自分を傷つけないといけなかったのだろうか。何故すべての事は私が原因で悪くなると自分を追い込んでしまうのか。
 意地悪な見方をすると、こうして自分を責め、追い込み、卑下することで、一歩前に出る自分の勇気のなさを合理化しているようにも見えるのだが。
 自分らしく生きるという事がとても困難な時代を私達は生きている。それには勇気も気力も体力もいる。自虐とか自分を無にしてやりたい事を諦めてしまう逃げの姿勢の方が楽だと、私は本能的に感じているのではないだろうか。
 「兄に会いに行こう」というのが、自分らしさに近づく一歩なのかもしれないが、読者としては、今までの私と兄との関係からみて、この優しい手紙は何かしら唐突な感じがしないでもない。
 日々の生活をどうする事が、自分らしく生き抜く事に繋がっていくのか、この作品を通して改めて考えなおしてみたいと思わされた。
スポンサーサイト

コメント


管理者のみに表示

トラックバック