「駅」(バージョン2)  石崎徹

駅(バージョン2)      石崎 徹

「わかってるさ」いらだって、ギングの声がつい高くなった。「宇宙人保護法ができたくらい、ぼくだって知っている。でも法律は人の行為は罰するが、感情までは罰しないんだぜ」
「ママ、それ本当よ」とルルが言った。「オーレ先生が言ってたわ。でもわたし、あの人たちわりと好きなの。かわいいじゃない」
「ルル、おまえいまなんて言った? あの人たちって、あの化け物たちのことかい? あのとんでもなく気味の悪い、嫌なにおいのする生き物のことを、あの人だとか、かわいいだとか言ったのかい?」
「し! 黙って」ララが思わずあたりを見まわしながら注意した。「世の中には民法ってものもあるのよ。彼らの耳にはいったら名誉棄損で訴えられるわ」
 三人は人々でごった返す歩道を駅に向かって歩いているところだった。だが、人々?たしかに半分は人だったが、残りの半分はなんとも奇妙な形をした生き物だった。
「えい、ちくしょう」ギングは悪態をついたが、いくぶん声量を抑えた。「なんだって自分の国でびくびくして暮らさなきゃならないんだ。何世代にもわたって営々と築いてきた国を、どうしてぼくらが追い出されなきゃならないんだ」
「だって仕事がなくなってしまったんだもの。引っ越すしかないじゃない」
 ララの言うとおりだった。宇宙人たちが来はじめて、最初のうちは政府が厳重に隔離し、綿密な検疫が行われた。だが、どんどん大量にやってくるので、じきに迎えるこちらのがわが予防注射を受ける羽目になった。彼らは大量の未知のウイルスを持ち込んだので、医学界も衛生界も政府も人々もその対策に大わらわだった。洩れたウイルスもあり、死者も出た。排撃の世論も沸き立った。だが、彼らはじきにこちらの言語を解するようになり、知能も高く、高い文明と道徳を持っており、勤勉でもあることがわかって、受け入れるべきであるという世論がまさったのだ。
「オーレ先生が言ってたわ。住むところのなくなったかわいそうな人たちなんだから、受け入れるのが人道だって」
「人道なんて名目だけだよ。資本家たちは低賃金労働者を見つけ出したわけさ」
 彼らはじきに労働市場に投入された。最初は単純労働だけだったが、勤勉で知能も高かったので、専門職にまで進出した。しかも低賃金で文句もこぼさず働いた。その結果、ギングは失業したのだ。
「今度行く国には仕事があるの?」とルルがきいた。
「あの国の世論は賢明だからね。宇宙人の流入を制限しているんだ。まだ単純労働者しか受け入れていないよ。だから専門のスキルとノウハウを持った人間には仕事があるのさ」
「あの国が後進国だってだけのことよ」とララが溜息をつきながら言った。
「でも考えてもみろよ。原子核をいじることがどんなに危険かくらい、小学生だって知ってることだぜ。やつらはそのタブーを冒したんだ。自業自得じゃないか」
 駅の中は外よりもっと混みあっていた。やはり半分は宇宙人だ。彼らは住めなくなった自分たちの星をとっくに捨ててきたのだが、住みよい国を探してうろついているのだ。この周辺にはいくつもの国があって、文明の進歩の程度は多少違うが、いずれも人間の住む国だ。どの国も宇宙人たちをどう受け入れるかでそれぞれ悩んでいる。おかげで人間たちまでが、故国を捨てて外国へ移住せねばならない。
 三人は搭乗手続きを済ませ、人間たちの多いところを選って、ロビーの椅子に掛けた。
 いましも一台のロケットが発射する音が伝わってきた。外国に行くにはロケットで行くしかない。どこも別の星だから。
 ギングはまわりを見まわし、そばに宇宙人がいないことを確かめた。
「ララ、ルルの感覚がおかしくなったと思わないかい? ぼくは心配だな。ララはあの連中に平気になれると思うかい?」
「わたしだって、本音を言えばいやよ。でも時勢を受け入れていくしかないでしょう?」
 ギングは向こうを宇宙人たちが歩いていくのを見ていたが、嫌悪の気持ちの湧きたってくるのを抑えきれなかった。においもたまらないが、なんと奇妙な姿かたちだ。脚は四本しかなく、しかも二本は頭のすぐ下から垂れ下がっている。
 ギングは振り返って、妻と娘を見た。そのどちらもが持っている二十本ずつの脚のすばらしい美しさに思わず溜息を洩らした。
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コメント

初めて読んだ時は、途中でテーマが変わってしまっているように見えたのだが、読み返してみると勘違いだった。偏見と思い込みに対する批判が最後まで貫かれている、ということが最後まで読んだらわかる。

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