高林正夫「爪」  石崎徹

高林正夫「爪」(民主文学7月号) 石崎徹

 小頭症の子とそのかたくなな母親を相手に格闘する新任教師の話である。ひたすら格闘の現場に密着して描写していく。その文体はやや平板ではあるが、静かな迫力があって、読者をひきつける。読み終わったあと深い溜息が漏れた。ところどころに挿入される音や光の描写に作者の筆使いの個性がのぞいてメリハリをつける。
 才能を感じさせる好編ではある。が、不満が残った。障碍児や、障碍児教育に無知な読者の一人として、多少の知識を与えてほしかった。例えば障碍児教育にはかなり専門的な知識を必要とすると思うが、「医療分野に関して全く門外漢の秋本」と書かれている。日本の障碍児教育の現場がどうなっているか、解説的にはなるが、一言触れてほしかった。もちろん「医療分野に関して全く門外漢の」と書くことで解説せずに触れているのだが、これだけではあまりに現場に密着しすぎていて、障碍児教育の全体像が見えてこないのである。
 小頭症についても医学面の解説が欲しかった。小頭症教育の全体像が知りたかったのである。
 この作品は現場に密着することで独特の迫力を生みだした。かなり希有な作品とも言いえよう。ただズームしっぱなしのレンズを少し離して俯瞰図を映してくれるところがあれば、もっと読者の心に深く刻み込まれたのではないか、と思うのである。
 あと、母親の像が不鮮明だった。小説なのだから、服装だけでなく、年齢や容姿も書いてほしかった。心のなかをイメージしにくい母親であるだけに、せめて外観でイメージしたいのだ。
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