望月笑子「無機質な腐敗」  鬼藤千春

望月笑子「無機質な腐敗」  鬼藤千春

 これは、第10回民主文学新人賞の佳作になった作品である。彼女のプロフィールを見ると、盛岡支部の協力会員となっているが、新しい書き手であることがうかがえる。新人賞にふさわしい書き手と、作品であると言えるかも知れない。
 主人公、赤星妙子は盛岡から横浜の新日本自動車へ派遣社員として赴く。派遣社員は、賃金の3分の1をピンハネされ、社会保険料等の他に、寮費の5万円が差し引かれる。
 が、女性が手取り20万円も貰える職場は田舎にはない。妙子は何よりも自分が必要とされていることに喜びを感じていた。妙子はいまだかって、これほど生き生きとした職場で仕事をしたことがなかった。
 しかし、やはり非正規社員というのは、退職金やボーナスもなく、いつ解雇されるか分からない、身分の保障のない存在である。新日本自動車の工場内の約6割が非正規労働者で、女性は1割もいなかった。毎月10名、20名という単位で派遣社員が解雇されていった。
 妙子の身にも解雇の危機が迫ってきた。そんな時、加藤狩雄が「俺は、最終的に派遣社員を解雇するかしないかを決める権限を持っている」と言って、妙子に近づいてきた。そして、妙子は車の中で、加藤にセクハラを受けたのだった。
 結局、妙子は派遣切りに遭い、盛岡へ帰って来た。そこで、以前からの知り合いだった瀬川新次に会うことになる。瀬川新次は司法書士の資格を取って、開業したばかりだった。妙子はセクハラについて瀬川に相談に乗ってもらい、訴訟を起こすことを決意する。妙子はM簡易裁判所へ提訴した。
 そして、盛夏の8月11日が判決の当日であった。妙子と瀬川は簡易裁判所へ行き、判決言渡正本を受け取った。判決は一部勝訴という結果だった。相手が控訴してくる可能性もあり、まだ油断はできない情況だが、妙子は「少しほっとしました」と瀬川に告げた。妙子はこの訴訟が終わったら、ホームヘルパーの資格を生かした仕事をしたい、ということを母に告げた。
 これは、派遣社員へのセクハラという新しい題材に果敢に挑戦した作品である。また、訴訟という難しい問題を正面から取り上げ、それを作品化したことの意味は決して小さくない。
 非正規労働者を人間として扱うことなく、モノのようにしか見ない労働環境が広がっている。女性の2人に1人が非正規労働者という実態である。そして、職場でのパワハラ、セクハラが横行している。妙子はセクハラという難しい問題に泣き寝入りすることなく、人間の尊厳を守って、訴訟をもってたたかうのである。
 この作品は、そうした社会の在りようを反映したものであり、アクチュアルなテーマに挑んだ力作である。

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