永沢滉「霧の中の工場」 石崎徹

永沢滉「霧の中の工場」 石崎徹

 「民主文学新人賞」佳作作品。
 選評は組合結成の話としているが、ぼくには企業小説としてしか読めなかった。前半は文章が平板で退屈する。企業乗っ取りの裏話らしくなって、やっと興味を惹かれた。小さな醤油工場の持つ特許を狙って、大企業と裏社会までが暗躍する話は面白い。この小説はこの小企業の社長を主役に据えるべきだった。彼の苦悩する姿がいちばん心を打つ。彼が主役であれば、日本経済のひずみがもっと浮き彫りになっただろう。
 組合側には見るべきものがほとんどない。というのは経過報告と理屈だけで、組合員の心のなかに入っていないからである。20名しかいない会社なのに、登場するのは役員の3名だけ、その3名すら描き切れていない。正子の造形には興味を引かれるが、それも中途半端に終わっている。紀夫のプライベートをくどくどと書いているけれど、小説全体のなかでは浮いている。
 経過は必要だが、理屈は要らない。それよりも一人一人の生活と感情とに触れたいのだ。それが小説というものだろう。前半はすべて説明にすぎない。描写がない。
 時代を描けていない。選者も触れているが、携帯電話の存在する時代にはとても見えないのに携帯電話が登場する。何年を念頭に置いて書いたのか。時代は刻々と移り変わっており、こういう小説には年代設定が特に重要である。
 百枚で書ける内容には限りがある。焦点を絞らねばならない。(これはぼく自身の反省でもある)。
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