笹本敦史「ユニオン!」を読む  鬼藤千春

笹本敦史「ユニオン!」を読む  鬼藤千春

 この小説は、第10回「民主文学」新人賞に選ばれたもので、その賞にふさわしい作品である。石井正人が選評の中で書いているように、選考委員の全員一致で選ばれている。他の2つの、佳作に選ばれた作品も力作だが、やはりこの作品は秀逸である。
 この作品を最初に読んだ直後、私は3つのことが印象に残った。それは、第1に労働現場で働く労働者の姿である。第2はユニオンを結成する経緯とその活動である。第3は恋愛問題であった。
 少し時間を置いて再読してみたが、その印象は変わることなく、ますます鮮明に私の心をとらえて放さないものとなっている。したがって私は、3つの角度からこの作品に迫ってみたいと思っている。
 まず、労働者の働く姿である。主人公の白井武志は、生協の配達を全国で請け負っている会社の社員である。生協には、組合員への「班配達」と「個別配達」というのがあって、武志の会社は「個別配達」を請け負っている。
 その個別配達の労働実態が余すところなく描かれている。もちろん実際の配達のようすはもっと複雑であるかもしれないが、省略とデフォルメでくっきりと描き切っている。
 特に、エレベーターのない5階建ての県営住宅での武志の働く姿はリアリティがあって、読むものを惹き付けずにはおかない。こうした労働者の働く姿をリアルに描くことによって、この作品は支えられている。この作品を上部構造と下部構造としてとらえるとすれば、ユニオンの結成や恋愛問題は上部構造であり、労働現場とその在りようは、この作品の基礎であり、下部構造である。それを、この作品は巧みに描いている。
 第2は、ユニオンの結成とその歩みである。このユニオンの結成は、とても巧く処理され、自然の流れのなかでこの作品に溶け込んでいる。
 しばらくしてガンコ(岩田美紗子)が立ち上がった。
「終わったから帰ります」
「ああ、お疲れさん」
 古田が言った。
「あれ、行くのか?」
「ええ、一応話だけでも聞いておこうと思います」
 このように、ユニオン結成への導入部が、不自然でもなく唐突でもなく、ひとつの流れとして描かれてゆく。美紗子は、これから生協関連ユニオンの山田(女性)という書記長に会いにゆくのだった。ふたりが会うというファミレスに武志と新井も行くことになる。山田は来週の土曜日に、生協関連ユニオンの支部を立ち上げたいと言った。
 武志の働く会社は、労働基準法を守られていないことがいくつもあった。たとえば、サービス残業の問題、年休がとれない問題、労災が受けられない問題などであり、慶弔休暇も制度化されていない問題などがある。
 そして、迷っていた武志も、ユニオンに加入することになり、西センターの5人と東センターの4人でユニオンを結成することになった。北センターの加入者はなかった。そして団体交渉で、要求として出されていたものが、多く認められて大きな成果を得ることができた。が、このユニオンはその第1歩を歩み出したばかりである。
 この作品は、現在の日本で未組織労働者が多く存在する中で、その労働者の組織化という問題を象徴的に描いており、未来への希望を語っている。大局的に見れば、このユニオンの結成は、ごくごく小さな芽が顔を出したに過ぎないと言えるかも知れません。が、その小さな芽は、大きな典型と言わなければならない。いまの日本は一方で、時代閉塞感が覆っているように見えますが、その時代と社会にあって、「小さな芽と大きな典型」を描いたということは、文学の大きな成果であり力だと思います。それが時代と社会の本質であり、それに迫った作品である。
 第3は、武志と美紗子の恋愛である。この恋愛はこの作品の中で、多くの紙幅が費やされているわけではない。が、作品の導入部から結末まで、ふたりの恋愛問題は、通奏低音のように流れている。このふたりの、結実するに違いない、ある意味での絆、連帯、恋愛は、労働者が連帯し団結してゆくひとつの象徴としても描かれている。この作品を豊かなふくらみをもたせ、大きな果実として実らせているという点で、意味深い恋愛の描写だといえるだろう。
 「民主文学」新人賞は、今回で第10回目であるが、2回「授賞作なし」というのがあるので、笹本敦史の受賞は8人目である。この「ユニオン!」は今までの受賞作に決して劣らない、水準の高い、新人賞にふさわしい作品である。
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