2014年12月の記事 (1/1)

能島龍三「北からの風に」(民主文学1月号)

 何らかの体験をもとにせねば書けない作品であろう。リアリズムの重量を感じる。こういうものを読むと作りものの小説を薄っぺらく感じてしまう。
 精神障害の子供たちが入院している病院での話だ。その病院の中に学校があり、小学中学相当の子供たちを教育している。それまで知恵おくれの子を受持ってきた<私>は定年まぎわになって初めてこういうところへ来た。未経験である。
 障害の程度はさまざまだが、特に重症の子がおり、孝弘という15歳の少年がそうだ。作品は孝弘に焦点を当ててほとんどそれだけを書く。主人公は孝弘といってよい。
 幼児期に父親の激しい暴力を受けて脳にダメージを負った孝弘は、日常的に他人に暴力をふるってしまう。病院は人手不足もあり、彼を監禁し、なおかつ筋弛緩剤で動きをセーブしている。精神の動きがにぶく、教育どころではない。
 前任者の説明ではそれはいまの医者の方針で、以前の孝弘は小数も分数もでき、地理が好きだったのだという。
 医者が交代したおりに、<私>は薬を減らせないかと提案する。医者は迷うが、やってみようという結論になる。
 薬を減らすと心も体も動きが活発になり、その分暴力も頻繁だが、<私>はコツを習得して、危険を抑止しながら、次第に自由の幅を拡げてやろうとする。
 孝弘の暴力はやまないが、本人はそれを悪いことだと自覚しており、にもかかわらずやってしまうことに自責の念を抱いてさえいる。
 こういう孝弘を見て、<私>はいま孝弘の精神は最も高いところへあるのだと感じる。
 そして破局はいきなり来る。ちょっとしたきっかけで、孝弘の脳は最高の状態から最悪の状態へと一挙に転落する。暴力がとまらなくなり、拘束するしかなくなる。やがて急性硬膜下血腫を起こし転院、命は助かったようだが、肢体不自由児施設にいるという。だがこういうところの教師はルールによって生徒との個人的接触を禁じられており、それも噂に聞くだけだ。
 人間存在というものの重みをずっしりと受け渡される作品である。

(「石崎徹の小説」から転載)
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「梅の木のある家」 長瀬佳代子

梅の木のある家
「梅の木のある家」 長瀬佳代子

「まがね」掲載作を中心に収めた短編集です。

梅の木のある家
沈丁花
村でくらせば
谷間の小屋へ (第1回川崎文芸懇話会賞 第2席)
姉の秘密
心残り
待つ女
冬日
あらたなほほえみ (第18回かわさき文学賞《美須賞》)
季節の終わり

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「脈道」 中山芳樹

脈動
 著者の体験に基づく4作の短編小説を収めています。

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11月例会のご報告と1月例会のご案内

11月例会の報告
 11月23日(日)13時から吉備路文学館で例会を開催しました。参加は妹尾、田中、石崎、中山、井上淳、笹本でした。

 参加者から中国地区研究集会の報告がありました
・岡山支部からは石崎、原、井上、笹本が参加しました。
・全体の参加者は講師の他13人でした。
・講師のたなかもとじ氏は気さくで親しみやすかった。
・呉支部の小澤さんの作品(随筆)の完成度が高かった。
・井上作品は好評を得たが、フィクションであることが理解されにくいと感じた。
・井上作品について、細かい描写ができていないという指摘があり、当たっていると思った。

 来年度は岡山での開催となるため、会場などについて意見を出し合いました。

「まがね56号」の合評を行ないました。

「マンション火災」妹尾倫良
・小説ではないと感じた。
・会話・描写にユーモアが感じられる。
・主人公の存在感が薄く、切実さが伝わってこない。
・マンション住民が高齢化している現状が滲み出ている。
・詩的な表現が多く、魅力的だ。
・避難の場面に臨場感がある。
・以前より素っ気ない文章になっているが、悪くない。

作者から
・退院後初めて書いた作品で、清書するだけでもたいへんな時間が掛かっている。
・小説というよりドキュメンタリー的なものとして書いた。


「残りの旅」長瀬佳代子
・3人の登場人物の誰にも焦点があたってなく、人物が浮かび上がらない。
・若杉峠の描写がもっと欲しい。
・構成がうまく、文章もいい。
・老いの寂しさを感じながらも、生きてきた人生を肯定できる生き様を感じる。
・感情に訴えるものが少ない。心を打たない。
・文章が上手すぎて、哀愁が滲んでこないのではないか。
・切なさは十分伝わった。
・エッセイとして書いた方が良いものになったのではないか。

「二つの『再開』」野中秋子
・この青春観はこの世代独特のものだが、もっと客観的に見る必要がある。
・トップアスリートの話を入れる必要はない。
・アスリートの精神論はよく言われているようなことで目新しさはない。
・メールのやりとりに臨場感がない。
・もっと人物を掘り下げた方がいい。
・良い感性を持っていると思う。もっと深く考えたら良いものが書けるのではないか。

1月例会のご案内
日時  1月25日(日) 13時~16時半
場所  吉備路文学館


内容
 まがね56号の合評
  「父の死」中山芳樹
  「出生率」井上淳
  「瀬戸を渡る」笹本敦史
  「あこがれ」石崎徹

12月は忘年会開催のため例会はありません。

受贈紙誌
 東京南部ニュース535号 536号
 欅通信9・10月号 11月号